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【入管闘争市民連合パンフレット「なぜ入管で人が死ぬのか」連載⑦】

更新日:2022年11月27日

集中摘発と在留特別許可で達成された半減計画と送還忌避者の増大


 図4 「不法残留者」数の推移


 5年たって半減計画の「成果」はどうだったのでしょうか。入管の「不法残留者」数の統計(図4)でみると,

2004年1月の22万人ぐらいから5年たった2009年には11万人と、 半減という目標はほぼ達成されました。ただし、この間、退去強制手続きの過程で在留特別許可(在特)が出た人が5万人ぐらいいます。半減計画は、その半分は在特で達成されたわけです。

 このあたりの経緯については、元入管職員の木下洋一氏の証言があります。


   ……半減計画実施中に在留特別許可の業務に関わった元入管職員、木下洋一は「不法残留者をとにか

   く半減するのが至上命題で、多くの在特を出しました」と振り返る。 「この間、摘発を強化していた

   のは事実です。ただ、入管の職場はそれ以上に、在特を出そうという雰囲気に包まれていました。

   「在特祭りだ」と言って非正規滞在者を正規化していったんです」。当局の摘発や自らの出頭で在留資

   格のない外国人 の入管難民法違反(不法残留、不法入国など)が発覚した場合、強制退去に向けた手続

   きが始まる。入国警備官による違反調査の後、入国審査官による違反審査、特別審理官(職種は入国審査

   官)による口頭審理、法相による裁決という3段階の調べを経て、法相が「特別の事情がある」と判断す

   れば、在特が出る仕組みだ。半減計画の実施期間中、入管は在特を出す基準を緩め対応した。 「子供がい

   たり、日本人と結婚していたり、そういう一定の条件がある場合、すぐに在特を出していました。「スー

   パー在特」と内部で呼んでいるものもあって、一 日で許可を出したものもあります」。木下は言う。

  「違反審査を割愛し、口頭審理でも「結婚しているんだよね」などと簡単な確認で終わりです。半減計画が

   達成しなかったら、幹部の首が飛ぶみたいな噂も流れて、ある程度の条件があれば一律に許可を出してい

   ました。ある意味で公正な行政でした」

            (平野雄吾『ルポ入管――絶望の外国人収容施設』ちくま書房、2020 年、203‐4頁)


 ただし、在特基準がこの時期緩和されたとはいえ、国際基準に基づいた難民受け入れが行われたのではありません。また、摘発された後に日本人等と結婚した、いわゆる入管が言うところの「駆け込み婚」[1] の場合、その多くに在留特別許可が下りませんでした。つまり、 摘発時において日本人や永住者との婚姻が法的に成立している配偶者がいるなど一部の人しか救済されませんでした。

 こうしてこの時期以降、在特によって救済されず、しかし送還を拒否せざるをえない、いわゆる「送還忌避者」が相当数生じることになったのです。この増大しつつある「送還忌避者」がどういう人たちなのかについて、2000年代初期から西日本入国管理センターで面会を続けてきた支援者は、以下証言しています。


    2005年ころから摘発・収容された被収容者の中に、帰国を拒否する日本人の配偶者やイラン、

   パキスタン、スリランカ、アフリカ諸国の難民申請者がみるみる増大しました。長年、日本在留を黙

   認されてきた非正規滞在外国人は、その間に日本人と結婚したり、結婚を前提にして付き合うなど、

   日本社会に溶け込み、生活基盤を日本社会に築いていきます。また、難民申請のことを知らなかった

   り、入管に出頭して難民申請し収容送還のリスクを負うより、摘発されないからこのままの方がよい、

   と難民申請をしない難民もたくさんいました。

    このように、入管のご都合主義的な行政が、帰国できない外国人・難民を入管法上の長期の「不法

   滞在者」として作り出してきた、とも言えます。


 2004年に始まる半減5か年計画は、その目標どおりに「不法残留者」を半減させました。他方で、政府が非正規滞在外国人を黙認するのをやめ、徹底的な摘発に乗り出したことが、帰国できない事情をかかえる人びとの存在を顕在化させたのです。そして、本来難民として認めるべき人を認めず、また日本人などとパートナー関係にある人を「真正な婚姻」ではないと一方的に決めつけて家族の結合権を否定し、さらに長期間日本で働いて産業を底辺で支えてきた人たちの在留を認めず、送還の対象にすることで、送還を拒否せざるをえない人びとを多数生み出しました。こうした人たちを入管は「送還忌避者」と呼ぶわけですが、 この「送還忌避者」とはまさに入管行政が作り出したものにほかならないのです


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[1] 摘発時にすでに日本人や永住者資格を持つ外国人との婚姻手続きが済んでいるケースでは退去強制手続きにおいて在特が認められることが少なくないのに対し、「駆け込み婚」の場合はほとんどが認められません。婚姻手続きをしていなくてもパートナーとしての実態がある場合はあるし、婚姻届を提出する際に必要な婚姻具備証明書類を本国から取り寄せるのにきわめて煩雑な手続きと高額な費用を要する場合もあります。婚姻手続きが済んでいない、あるいは当分はできないということをもって、婚姻の実態がないとは言えません。しかし、入管は、そうしたそれぞれの実態や事情を十分に考慮せずに、「駆け込み婚」は「真正な婚姻」ではないとみなしているために、そのほとんどに在 特が認められず退令発付処分が下されているという結果になっているのです。


( 次回 4. 2009 年~2015 年/「2009年の入管法改定」、「送還一本やり方針の徹底」、「送還強硬方針の敗北宣言」)



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