ウィシュマさん死亡事件の責任の所在
2021年3月6日、名古屋入管に収容されていた、33才のスリランカ人女性ウィシュマさんが亡くなられました。ウィシュマさんの収容されてからの経緯を見れば、ウィシュマさんの側に問題があったのではなく、入管に見殺しにされたということは明らかです。にもかかわらず、入管は、その収容主体責任を認めようとせず、末端職員に責任を擦り付ける、責任逃れの対応を繰り返しています。
この死亡事件、背景にある入管の本質を多くの方に知って頂き、入管問題を抜本的に改革していくために、日本社会として入管に対して声を上げ、闘っていきましょう。
ウィシュマさんが収容されてから亡くなるまでの経緯
ウィシュマさんが元交際相手からの脅迫を恐れ、帰国意思を翻す
ウィシュマさんは2020年8月に収容されてから亡くなるまで、6ヶ月を越える長期間、狭い空間の中に閉じ込められていました。
彼女は収容された当初は帰国に同意していましたが、退去強制令が出されて間もなく、帰国できない深刻な事情が発生してしまいます。それは、同居していた彼氏から暴力を振るわれており、彼から手紙が来て脅されているということです。帰国すれば命の危険があると感じたウィシュマさんは、12月17日に、これまでの意思を覆し、日本に残りたいと職員に伝えました。
日本在留を希望した途端、入管職員から圧力
日本在留を希望する旨を伝えた途端、入管側の態度が豹変し、「帰れ、帰れ」「無理やり帰される」と言い、圧力をかけてくるようになりました。ウィシュマさんから「職員は私の言うことをちゃんと聞いてくれない」、「怖いから面会に来てください」と、STARTに電話連絡が入るような状況になってしまいました。
恐怖による体調不良と、職員による見殺し
体調は日に日に悪化していき、1月下旬、吐血したウィシュマさんは、2月5日、外部の病院で胃カメラの検査を受けました。ところが、その検査の結果について、ウィシュマさん本人には「問題なし」としか報告されていませんでした。その後も、吐くことを恐れ、飲食ができなくなったり、歩くことができなくなったりしていました。しかし入管は、ウィシュマさんに対し、「リハビリ」と称し介助もせずに歩かせ、何度も転倒することがありました。亡くなる3日前に面会したSTARTのメンバーは、「異様な状態で、もう死にそうな様子だった」と感じています。
以上からわかるように、ウィシュマさんを詐病、嘘つき呼ばわりし、厄介者扱いして、点滴も打たず、最後は動けなくなったウィシュマさんを放置し、見殺しにしてしまいました。
※ウィシュマさんの収容されてからの経緯を、名古屋入管で面会活動を継続的に行っていた、START~外国人労働者・難民と共に歩む会~のホームページに掲載しています。詳細を知りたい方は、こちらをご覧ください。
※2021年4月21日に、ウィシュマさん死亡事件を受けて緊急抗議集会を行いました。
集会の基調報告において、「ウィシュマさん死亡事件の責任の所在はどこにあるのか」というテーマについて詳しく扱っています。下のボタンからご覧ください。
中間報告:入管は、ウィシュマさんを詐病扱い
最終報告①:名古屋入管個別、末端職員の問題に矮小化
法務省入管庁は、4月9日、「名古屋出入国在留管理局 被収容者死亡事案に関する調査状況(中間報告)」を発表しました。しかし、入管側からの事実認定と、START、支援者側からの事実認定が大きく食い違っています。そればかりではなく、入管は、ウィシュマさんを、病気のふりをしている、詐病だとみなしていました。それは、ウィシュマさんは、入管の出す管給食は食べなかったが、自分で買った食べ物や飲み物、他の被収容者からもらった飲み物は飲んでいた、という記載に端的に表れています。入管に与えられている収容権は、被収容者の健康や命を守る等、収容主体責任義務を果たすことを前提に与えられているにもかかわらず、名古屋入管は、「医師の指示に基づき適切な処置をしていた」と、収容主体責任を棚にあげています。
そして、事件から5ヶ月が経った8月10日、入管庁は、「最終報告書」と位置づけられる「調査報告書」を公表しました。この「調査報告書」においては、中間報告書と比較して、新たに明らかになった点はあります。例えば、2月15日の尿検査の結果が「飢餓状態」を示していたにもかかわらず、再検査として内科的な検査を行わなかったことなどです。しかし、この最終報告は、問題の扱い方に大きな問題があります。それは、問題の背景にある、送還一本やり方針や、当事者のことを嘘つき扱い、厄介者扱いする偏見に全く触れておらず、名古屋入管で偶然起こった個別の問題、末端職員の問題として矮小化しているということです。「入管庁も名古屋入管局長も、被収容者の生命と健康を守る責務を有することを自覚していたにもかかわらず、現場の職員の対応に問題があった、現場職員が勝手にやったことだ」と言わんばかりの、トカゲの尻尾切りとしか言いようがありません。
最終報告②:支援者、ウィシュマさんを悪者扱い
また、この調査報告書において、1番悪者と扱われているのは、ウィシュマさんをそそのかした支援者、2番目に悪いのは、それに乗ったウィシュマさん、3番目に悪いのは名古屋入管の末端職員としています。このように、法務省入管の幹部などは、一切責任を認めず、支援者やウィシュマさん本人、末端職員に責任を擦り付けています。すべて入管庁や名古屋入管の幹部の責任逃れのためのものです。実際、名古屋入管の局長と次長を訓告、警備管理官ら幹部2人を厳重注意とし、懲戒処分にもせず幕引きをしようとしています。死亡事件は情報共有や医療体制の不備から起きたわけではなく、また現場の職員が勝手にやったことでもありません。
まとめ
ウィシュマさんは、日本の治安を乱すような犯罪者ではなく、むしろDVの被害者であり、保護される対象でした。このような、本来亡くなる必要のなかった人が、入管によって見殺しにされたことは明らかです。ウィシュマさんは、当事者一人一人の事情や被収容者の健康や生命よりも、帰国させることを最優先する、入管の送還一本やり方針の犠牲者であると言えます。
ウィシュマさんは、点滴一つも打たせない処遇を受け、仮放免も許可されず、そして目を覆いたくなる嫌がらせや虐待を受け、ウィシュマさん自身から「もうスリランカへ帰る」と言わしめようとする送還のための処遇によって死亡したのです。ウィシュマさんの死亡事件は、送還促進のための処遇を徹底化せよとの本庁の指示通達等を、名古屋入管が忠実に執行したことによって起きたものであって、処遇現場の職員教育の不足や医療体制の不備そのものが原因で起きたものではありません。
以上から、ウィシュマさん死亡事件の責任の所在は入管庁本省にあることは明らかであり、自らの責任を棚に上げ、職員教育の不足や医療問題に矮小化することは許されません。私たちは、入管庁本省の責任を徹底して追求し、事件の真相を明らかにするために闘います。
第2、第3のウィシュマさんを生まないために
以上で述べてきたように、この事件は特殊的、個別的問題ではなく、入管の、送還忌避者に対する対応や差別、偏見が端的に表れたものです。問題の根拠にある送還一本やり方針そのものを抜本的に作り変えなければ、第2、第3のウィシュマさんが生まれてしまいます。入管による差別、抑圧を日本人が自分たちの問題として捉える必要があります。多くの人が反対の声を上げ、入管対日本社会の対立構造を作り、当事者の権利を守るために訴えていきましょう。